過払い金|公務員に対する業務の実態のない手当は違法?

原告
市場
開設者

主文

一原告の請求をいずれも棄却する。
二訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、渋谷区に対し、各自一三五四万〇三七九円及びこれに対する平成九年一一月二〇日から(ただし、被告Bは同月二一日から)各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、渋谷区の住民である原告が、平成八年八月から平成九年七月までに特殊勤務手当として区民部課税課の職員等に支給された税務事務特別手当及び区民部納税課の職員に支給された滞納整理事務特別手当(以下「本件各手当」という。)の支給は、勤務の特殊性がないにもかかわらず、また、個々人の具体的な勤務実績に基づかず、一律にされたものであるから、違法であるとして、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づき、渋谷区に代位して、被告らに対し、右手当相当額の損害賠償を求めた事案である。
一法令の定め
1普通地方公共団体は、危険作業その他特殊な勤務に従事する常勤の職員に対し、給与に関する条例でその額及び支給方法を定めて、特殊勤務手当を支給することができるところ(地方自治法二〇四条二項、三項、地方公務員法二五条三項四号)、渋谷区においては、職員の給与に関する条例(昭和二六年東京都渋谷区条例第一九号。
以下「給与条例」という。)一三条一項において、「著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要とし、かつ、その特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められるものに従事する職員には、その勤務の特殊性に応じて特殊勤務手当を支給する。」と定めている。
2本件各手当支給当時の条例、規則の定め
職員の給与に関する条例の一部を改正する条例(平成九年東京都渋谷区条例第三八号。
以下「改正条例」という。)二条による改正前の給与条例一三条三項は、「特殊勤務手当の種類、支給される職員の範囲及び支給額については、区長が定め、人事委員会に報告する。」と規定し、同項に基づき制定された職員の特殊勤務手当に関する規則(昭和四二年東京都渋谷区規則第一八号。
以下「特勤手当規則」という。)二条、別表において、特殊勤務手当として税務事務特別手当及び滞納整理事務特別手当を定めている。
このうち、税務事務特別手当は、特別区税の賦課徴収に従事する職員のうち、専ら従事する職員に対しては月額九
〇〇〇円を、右事務に専らは従事しない兼務職員に対しては月額二八〇〇円を支給するとされている(特勤手当規則別表「手当番号」1)。
また、滞納整理事務特別手当は、特別区税の滞納処分事務及びその補助事務に従事する職員を甲級、乙級、丙級に分け、それぞれ月額二四〇〇円、一五〇〇円、九〇〇円を支給するとされ、右級別は、外勤者については、その月分の平均徴収金額又は平均徴収件数が、その月分の総平均実績の二倍を超える者を甲級、その月分の総平均実績を超えるもその月分の総平均実績の二倍を超えない者を乙級、その月分の総平均実績を超えない者を丙級とし、内勤者については、勤務成績その他の事情を考慮して区長が定めるとされている(特勤手当規則別表「手当番号」2、備考二項)。
3本件各手当支給後の条例の改正
改正条例二条により、給与条例一三条三項が「特殊勤務手当の種類、支給される職員の範囲及び支給額については、別に条例で定める。」と改正されたのを受けて、それまで特勤手当規則によって定められていた事項について、新たに職員の特殊勤務手当に関する条例(平成九年東京都渋谷区条例第三九号。
以下「特勤手当条例」という。)が制定され、改正条例二条及び特勤手当条例は、平成九年一二月五日から施行されたが(改正条例附則一項、特勤手当条例附則一項)、特勤手当条例においても、税務事務特別手当及び滞納整理事務特別手当が特殊勤務手当の種類の一つとして規定されている(特勤手当条例二条一号、二号、三条、四条)。
なお、特勤手当条例においては、同条例の施行の日(平成九年一二月五日)前に、給与条例一三条の規定に基づいて職員に支給された特殊勤務手当は、特勤手当条例により支給されたものとみなす旨が規定されている(同条例附則二項)。
二前提事実(各事実は末尾掲記の証拠等によって認定した。)
1当事者
原告は渋谷区の住民である。
本件各手当支給当時、被告Cは、渋谷区長として本件各手当の支出負担行為及び支出命令の本来的権限を有する者であり、被告Bは総務部長として右支出負担行為の権限を、被告Dは総務部総務課長として本件各手当の支出命令権限を、それぞれ区長から委任された者である。(争いがない事実)
2本件各手当の支給手続
(一)区民部課税課、同部納税課及び出張所を担当する区民部長は、平成八年及び平成九年の各年度当初に、本件各手当の支給対象となる職員
を指定して総務部長(被告B)に申請し、同部長の認定を経た。
(乙八、弁論の全趣旨)
(二)このうち税務事務特別手当については、区民部課税課及び同部納税課の各課長以下の職員が専従職員に対する月額九〇〇〇円の手当の支給対象となり、出張所の所長以下の事務の職員が兼務職員に対する月額二八〇〇円の手当の支給の対象となるものとされていた。(弁論の全趣旨)
(三)また、滞納整理事務特別手当については、特勤手当規則別表備考二項の「内勤者に対するものにあっては、勤務成績その他の事情を考慮して、区長が級別を定める。」との規定に基づく昭和四九年三月三〇日付け区長決定により、係の責任者である係長及び悪質滞納者宅に出向き支払を促す一方、調査差押え等を行う事務に従事する職員(ただし、出勤日数がその月の執務日数の七五パーセント未満の者は乙級に下げ、三〇パーセント未満の者は支給しない。)を甲級とし、庶務、公売、検査、収納、催告、窓口等に従事する職員(ただし、出勤日数がその月の執務日数の七五パーセント未満の者は乙級に下げ、三〇パーセント未満の者は支給しない。)を乙級とし、乙級に属する補助職員(ただし、出勤日数がその月の執務日数の五〇パーセント未満の者は支給しない。)を丙級とするとされていた。
平成八年当時、滞納整理事務特別手当の支給対象者は区民部納税課の職員(課長を除く。)で、係別の級別の人員は次のとおりであった。
(甲級)(乙級)
納税管理係一人一〇人
納税促進係一四人三人
滞納整理係五人一人
(乙一九、証人E、弁論の全趣旨)
(四)支出負担行為及び支出命令
区民部課税課、同部納税課及び出張所の担当職員は、所属職員に本件各手当を減額する事由又は支給しない事由が生じた場合に、各月ごとに総務部職員課給与係に報告し、同係において、右報告に基づいて手当月額からの減額を行い、具体的な支給額を確定し、総務部長(被告B)が承認することにより支出負担行為をした。
また、総務部職員課給与係において、本件各手当について、給料その他の手当とともに支出命令書を作成し、総務部総務課長(被告D)が、同命令書を決裁することにより支出命令をした。(乙九、弁論の全趣旨)
3その結果、平成八年八月から平成九年七月までに、給与条例一三条一項、改正条例二条による改正前の給与条例一三条三項、特勤手当規則二条、別表に基づくものとして、次のとおり本件各手当が支給された。
(一)税務事務特別手当
(支給範囲)(支給額)(支給対象者となり得る人数)
区民部課税課五一六万五五八五円四八人
区民部納税課三七八万円三五人
区民部管理課(出張所)三八〇万六九九四円一一五人
(二)滞納整理事務特別手当
(支給範囲)(支給額)(支給対象者となり得る人数)
区民部納税課七八万七八〇〇円三四人
(争いがない事実)
4本件各手当が支給された職員の所属する部署の分掌事務又は所掌事務(一)区民部課税課
同課の分掌事務は、区税の賦課に関すること及び区税の収納管理に関することとされ、同課には、課税庶務係、軽自動車税係、特別徴収係、普通徴収係及びシステム担当主査が置かれている(東京都渋谷区役所組織規則八条、一二条)。
各係等の分掌事務等の内容は別紙記載のとおりである。
なお、本件各手当支給後の平成一〇年度から、システム担当主査は廃止され、その事務は課税庶務係に承継された。(乙二一、証人F)
(二)区民部納税課
同課の分掌事務は、区税の徴収に関すること及び区税の滞納処分及び不納欠損に関することとされ、同課には、納税管理係、納税促進係及び滞納整理係が置かれている(東京都渋谷区役所組織規則八条、一二条)。
各係の分掌事務等の内容は別紙記載のとおりである。(乙二一)
(三)出張所
出張所は、区内に一一箇所設置され、総職員数は一一五名であり、その所掌事務には、特別区税に関する事務が含まれている(東京都渋谷区役所出張所処務規程一条五号)。(乙一五、弁論の全趣旨)
5原告の監査請求及び本訴提起
原告は、平成九年七月三〇日、渋谷区監査委員に対し、本件各手当の支給が違法であると主張して、渋谷区長に対し、本件各手当相当額を渋谷区に返還させる措置を求めて監査請求をした。
これに対し、同監査委員は、同年九月二四日、本件各手当の支給が給与条例主義に違反するとして、渋谷区長に対し、特殊勤務手当について、地方自治法二〇四条、地方公務員法二四条、二五条の趣旨に従い、すみやかに条例化を図る措置をとることを勧告したが、本件各手当相当額を渋谷区に返還させる措置を求める請求については棄却した
ため、原告は、同年一〇月二〇日、これを不服として本件訴えを提起した。
(甲一、同二、弁論の全趣旨)
三当事者双方の主張
(原告の主張)
1税務事務及び滞納処分事務は、以下に述べるとおり、勤務に特殊性がなく、給与条例一三条一項の定める特殊勤務手当の支給要件を満たすものではないから、これらの事務に従事した職員に本件各手当を支給することは違法である。
(一)地方自治法一○条二項が規定するように、主権者は納税者、住民であり、納税に関する権利義務は法に基づき発生するのであるから、税務事務は一方的かつ強制的な徴収に該当するものではなく、地方公共団体の他の事務と比べて著しい特殊性はない。
(二)従来、区税の賦課事務は手作業で処理されていたが、税務事務のOA化により、課税事務の迅速化、窓口処理の即時化、収納状況の正確かつ迅速な把握、交渉経過の情報の共有化、手作業の省力化等の効果があり、税務事務の特殊性が変容した。
(三)税務事務を担当する職員は、三年から五年で異動するので、その在職期間内にマニュアルによる研修によって修得できるのは、新規職員でも即対応できる程度のものにすぎず、高度の専門性はない。
また、他の一般行政事務においても、それぞれの専門知識は不可欠であるから、税務事務のみが高度な専門性による特殊性を有するものではない。
(四)守秘義務の点についても、一般の地方公務員にもその違反には罰則規定(地方公務員法六〇条二号)があり、渋谷区個人情報保護条例に基づき、税務担当職員もその他の職員も等しく個人情報の保護に努めなければならないから、この点で、税務担当職員のみに特殊性があるわけではない。
(五)税務に係る疑問、不平、不満、苦言、苦情等については、懇切丁寧に納税者に説明するのが税務担当職員の責務である。
また、税務担当職員に高度な接遇能力が求められているものではなく、区政一般に対する苦言等は他の職員にも共通することであるから、特殊性は認められない。
2また、特殊勤務手当は、その職種の特殊性を踏まえ、個々の職員の具体的な勤務の実績を個別に的確に把握した上で支給されるべきところ、本件各手当は、慣例に基づき、税務事務に幾らかでも携わっていることを理由に、一律に支給されている。
被告らは、一般行政職より高い税務職俸給表が設定されている国と均衡を図る必要があったと主張するが、国の税務職の特殊性及び渋
谷区の税務職の職務内容を精査せずに、形式的に均衡を図ろうとするのは、具体的な勤務の実績を的確に把握した上でなされるべき特殊勤務手当の支給の要件を満たしていない。
(被告らの主張)
1税務事務特別手当について
(一)特別区税の賦課徴収の事務の処理に際しては、地方税法、所得税法、国税徴収法、国税通則法、民法、民事執行法、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律等に関する高度な専門的知識が必要であり、加えて、税が特定の対価なく強制的に徴収されることから不可避的に生じる納税者の不安、疑問、不満、苦情等に対して適時、適切に対応していくことが必要とされている。
これらの事務に従事する職員に支給されるのが税務事務特別手当であり、右手当が支給されている区民部課税課、納税課及び出張所の職員の事務には、前記の特殊性がある。
(二)また、国の租税の賦課徴収に関する事務に従事する職員には、その事務の特殊性から、一般行政職の俸給表より優遇的な格差を折り込んだ税務職俸給表が適用されるところ、税務事務特別手当は、国の租税と同種の事務である特別区税の賦課徴収の事務に従事する職員にも国の職員との均衡上同程度の処遇をすることを考慮して設けられたものである。
税務職俸給表は、国の租税の賦課徴収の第一線機関である税務署の全ての職員に適用されるところ、税務署と渋谷区の課税課、納税課とでは、税務署で扱う税目が広範囲にわたる点を除けば、職員の職務の内容も大きな差はないから、税務事務特別手当を、課税課及び納税課の全職員に支給することはもちろん、実質的に賦課徴収の事務の一部を担当している出張所の職員に対して支給することにも、違法な点はない。
2滞納整理事務特別手当について
(一)滞納処分事務は、差押え、換価、配当等の手段を背景に、滞納者一人一人の置かれた財産状況を勘案した納税の交渉を粘り強く行い、終局的に納税が期待できないときには、差押え、換価、配当等の手段を実行し、滞納税の解消を図ることが必要とされている。
滞納整理事務特別手当は、これらの事務に直接従事する職員及びこれらの補助事務に従事する職員に支給されるものであるが、右のとおり、納税課職員の事務には右特殊性がある。
(二)また、滞納整理事務特別手当は、前記のとおり、職員の具体的な担当事務に応じて甲級、乙級の格差を設けて支給しており、原告主張のように一律支給されているものではない。
3以上のとおり、本件各手当の支給は、給与条例一三条一項の要件に欠けるところはない。
四争点
したがって、本件の争点は、本件各手当の支給が給与条例一三条一項の要件を満たすか否か、の点にある。

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第三争点に対する判断

一渋谷区における税務事務及び滞納処分事務の内容
証拠(乙二一ないし同二三、証人F、同E)及び弁論の全趣旨によれば、本件各手当支給当時の渋谷区における税務事務及び滞納処分事務の内容について、次の事実が認められる。
1渋谷区で扱う特別区税の税目は、特別区民税、軽自動車税及び特別区たばこ税であり(東京都渋谷区特別区税条例三条)、また、同区は、併せて個人の都民税の賦課徴収も所管している。
2区民部課税課の事務
本件各手当支給当時、区民部課税課には、前記のとおり、課税庶務係、軽自動車係、特別徴収係、普通徴収係及びシステム担当主査が置かれていたが、各係における勤務の状況は、次のとおりであった。
(一)課税庶務係
同係は、課税課全体の窓口となっており、納課税証明を求める納税者等を含め、問い合わせが多数あり、また、他の関係団体等との調整も行っているため、区税に関する正確、適切な応答が求められている。
特に、納税者等に対して個々の課税内容に関する応答を行うために、特別区税の仕組みと運用の実際を把握し、税制度全体における位置づけを正確に認識するなど、税務事務全体に精通することを必要とされる。
(二)普通徴収係
同係の中心的な事務は、特別区民税の普通徴収に係る賦課事務であり、渋谷区において普通徴収する納税者は約五万二〇〇〇人である。
当初賦課に係る準備作業は、前年の秋ごろから始まり、その後、転出入等の異動処理を行い、課税対象者を確定した後、当該年の一月には住民税(特別区民税及び都民税)の申告書を送付し、また、確定申告書の用紙を窓口配布する。
これらの申告書の受付は、課税課及び各出張所で毎年二月一六日から三月一五日まで行われているが、期間中は所得税に関する一般用確定申告書、給与所得者の還付申告の受付のほか、税についての各種相談にも応じる。
このように、申告書受付期間は、郵送による申告も含め、短期間に大量の申告書の受付、整理等の事務を処理しなければならない。
受付時には、記載事項についての記入誤り、記入漏れ、資料の確認等の形式面のみならず、医療費控除、住宅取得控
除等の相談にも応じることから、地方税、所得税等に関する基本的知識が必要とされる。
そして、受け付けた申告書の内容点検を行い、税額を確定するが、当初賦課においては、正確な課税資料の収集が不可欠であり、税務署内で確定申告書を転写し、各種課税資料を同一人ごとに分類、整理し、納税者を特定するとともに、確定申告書や給与支払報告書などと突合し、収入金額、所得金額、所得控除額、扶養人数などの確認作業を行い、地方税法、所得税法、区税条例等の関係法令に基づき、各種所得金額、課税標準額、税額等を確定する。
普通徴収の当初賦課に係る納税通知書は六月末日の一〇日前までに送達しなければならず(地方税法三一九条の二第三項)、発送後、課税内容について様々な問い合わせが課税課へ集中するのに対して、課税資料と問い合わせ内容を確認しながら、所得税と地方税との制度の違い、臨時法、特別法による取扱いの異同等にも注意を払い、的確に説明し、納得して納税されるように注意と努力を払うことが求められる。
並行して、提出された申告書の修正、期限後提出された申告書についても当初賦課と同様な事務処理を行いつつ、未申告者に対して調査書の送付及び訪問調査を行い、前年中の就業状況や生活費の出所状況の確認をし、申告を促すが、未申告者については関係資料が不十分な場合が多く、訪問調査で就業状況等に応じた所得を把握するためには、調査経験と技術が必要とされる。
(三)特別徴収係
同係の担当する事務は、特別区民税及び都民税の特別徴収に係る賦課及び収納管理であり、渋谷区が指定する特別徴収義務者は約二万五五〇〇の法人等で、特別徴収する納税義務者は約五万六〇〇〇人である。
賦課については、特別徴収義務者から一月末までに区に提出された給与支払報告書を点検し、最終的に特別徴収義務者に特別徴収税額通知書兼指定通知書を送達するが、一連の事務の流れは、前記普通徴収の当初賦課の場合とほぼ同様である。
また、特別徴収義務者への特別徴収税額通知書兼指定通知書を五月三一日までに送達しなければならない(地方税法三二一条の四第二項)など、日数が限られている。
例月処理として、納税確認、退職による普通徴収分への切替え、退職金に対する特別徴収に関する照会、転勤による特別徴収義務者の変更、誤徴収・誤納入分の処理等の事務があり、地方税法等の規定に従った確実かつ迅速な処理が求められる。
(四)軽自動車税係
同係の中心的な事務は、軽自動車税の賦課及び収納管理である。
軽自動車税は、特別区民税と同様に賦課徴収の課税方式により、道路運送車両法による軽自動車、小型自動車のうち大型オートバイ及び原動機付自転車の各車両を対象として、毎年四月一日(賦課期日)現在の所有者に納税通知書を発付し、同年五月末日を納期と定めて徴収するものであるが、納税通知書が発送されると、譲渡や廃棄により車両を所有しなくなったにもかかわらず、その届出を怠っている者などからの問い合わせや苦情が多く寄せられることとなる。
同係職員は、これらの苦情に答え、疑問を解き、納税意志のない者の翻意を促すため、法令に基づき的確に説明する必要があり、説得には苦労することが多い。
(五)システム担当主査
システム担当主査は、特別区税の賦課、徴収事務にわたる税務システム全般の運用管理、賦課収納事務間のシステム調整、システムを操作する各職員に対する操作方法等の研修の企画、実施等を行っていたものであり、課税部門と徴収部門の調整等を含めて全体の動きを把握している必要があることから、各係の事務の内容、その手続の流れ等課税課全体の事務を把握していることのほか、税法全体にわたる知識が必要とされた。
3区民部納税課の事務
本件各手当支給当時、区民部納税課には、前記のとおり、納税管理係、納税促進係及び滞納整理係が置かれていたが、各係における勤務の状況は、次のとおりであった。
(一)納税管理係
(1)収納管理について
普通徴収の場合には、納期は四期に分かれ、納税者は、納期限前までに納税通知書により、納税課及び各出張所の窓口並びに銀行、郵便局等の金融機関で納税することとなる。
収納された区税は、各納税者の税目、年度、期別ごとに、それぞれ正確に消込みしていかねばならず、右作業は、事後の滞納整理と密接に関係するため、正確かつ迅速な処理が求められる。
また、過誤納金が発生した場合には、その還付について、他に滞納となっている税が存在し右滞納税に充当すべきものか否かや、還付加算金が発生するかなども確認する必要がある。
収納については、納税者の納付の負担軽減と税収確保の手段として、口座振替制度を設けているが、申込みが締切り期限の直前に集中し、一年分の一括引き落としから各期ごとの引き落としへの変更を申し込まれる場合も多く、申込書の捺印と金融機関への届出印の食い違いへの対応などの処理が生じ、特に納期限直前の場合には、間違いなく口座振替ができるように迅速に対応することが求められる。
また、納期限後、口座の残額不足による引き落としの不能に対する処理も必要となる。
(2)窓口収納事務について
納税課窓口には、自主納付の意思のある納税者の来訪もあるが、督促状、文書や電話による催告、臨戸及び財産調査臨戸に反発して来訪する納税者も少なくなく、その際、納税者から、賦課の根拠に関する質問、税の使途に対する疑問、反対意見、他の分野の行政サービスに対する不満や苦情などが寄せられるが、催告や財産調査等に反発して訪れた納税者からは、対応した職員が、怒りをぶつけられることもある。
そうしたことから、窓口職員は、これらに対して迅速かつ適切に対応できるよう、税についての知識習得はもちろんのこと、高度の接遇能力が求められる。
(二)納税促進係及び滞納整理係
両係は、すべての特別区税に関する滞納整理事務を担当するが、各種財産の差押え後の処理、すなわち、交付要求、参加差押え、換価(公売)、配当は、滞納整理係のみが担当している。
両係が担当するいずれの事務においても、地方税法、国税徴収法、所得税法、相続法、破産法、民事執行法等関連諸法令についての知識が要求され、事務遂行の過程には、次のとおり精神的緊張及び心労を伴う。
すなわち、特別区民税は、その納期限を経過して、納入のないことにより、滞納となり、滞納税が発生すると、納期限後五〇日以内に督促状を発付し、さらには、催告を行うが、これらの措置を採った後には、滞納者から、様々な問い合わせ、区税に対する疑問、苦情、反発等が寄せられ、なかには侮蔑的言辞を吐くものも少なくない。
これらに対応する職員は、税務知識を修得しておく必要があることはもとより、精神的にも我慢強く対応に当たることが必要となる。
また、滞納者の財産について把握するための財産調査や納税交渉のために、滞納者宅に臨戸する場合には、滞納者の強い反発にあうこともあり、精神的な緊張を強いられる場面に遭遇することもまれではない。
さらに、差押え、交付要求、参加差押え、換価、配当など一連の手続においても、地方税法、国税徴収法のみならず、民法、民事執行法等の関係法規についての正確な知識が不可欠であり、その過程において心労も少なくない。
4出張所の
事務
出張所は、特別区税に係るものとして、特別区民税、都民税及び軽自動車税の収納事務、納課税証明書交付事務並びに特別区民税及び都民税の申告書の受付を行っており、納税に関する個別的な疑問や区政一般に対する不平、不満や苦言に対し、第一線の区の機関として、税の基本的な知識と正確性、高度の接遇能力をもって納税者の理解が得られる対応が求められる。
二税務事務特別手当の支給について
1支給対象職員が特勤手当規則別表手当番号1の対象職員に当たるか否かについ前記認定の分担事務の内容に照らせば、課税課、納税課及び出張所の職員が従事する特別区税の賦課徴収の事務の中には、統計、広報、部内事務の調整、研修関連事務等その内容において通常の行政事務と著しい差がないと考えられる事務が含まれてはいるものの、その大半は特別区税の賦課、徴収に密接に関連する事務ということができるから、課税課及び納税課の職員は、いずれも特勤手当規則別表手当番号1にいう「特別区税の賦課徴収に専ら従事する職員」に該当し、出張所の職員は、同表手当番号1の「前号の事務に専ら従事しない兼務職員」に該当すると認められる。
2対象となる勤務が給与条例一三条一項にいう「著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要と」する勤務に当たるか否かについて
地方公共団体の事務の大半が住民に対するサービスの提供としての性質を有するのに対して、地方税の賦課、徴収等(地方自治法二条三項二一号)は、いずれも、法律、条例等により定められた厳格な手続、要件に従って広範な納税義務者に対して税負担を求め、最終的には納税義務者の財産から一方的かつ強制的にこれを徴収することにより地方公共団体の財政の基盤を確保しようとするものであることから、これに伴って、税負担の発生要件、その金額あるいは納付方法についての住民の疑問、不満が寄せられることは避けられず、これに対して、窓口での受付又は調査に際して、各事案に応じた的確かつ適正な応答、教示を適時に行うことが必要となるのであり、納税義務者が広範であり、適用すべき法令が極めて専門性の高いものであることを考えると、地方税の賦課、徴収等に係る事務に従事する者は、税に関する法律、条例等に関する知識を涵養し、課税、徴税という一連の手続を理解した上で、慎重に事務を遂行しなければならないものというべきであり、この点において、特別区税の賦課
、徴収の事務は、給与条例一三条一項が規定する「著しく特殊な勤務」に該当するものということができる。
なお、原告は、税務事務に幾らかでも携わっていることを理由に一律に特殊勤務手当の支給するのは違法であると主張するが、前記の観点に照らせば、課税課システム担当主査の行う事務は、窓口での受付又は調査における場合のような住民との直接の対応が予定されていない点で、他の部署の事務に比較して、右の特殊性が低いということはできるけれども、特別区税の賦課、徴収を合理的かつ円滑にするために必要な事務であり、税に対する専門的知識を必要とするものであるから、賦課徴収事務における著しい特殊性があるとした被告らの判断に、これを違法とするまでの裁量権の逸脱、濫用があったということはできない。
また、原告は、税務事務のOA化により、その特殊性が変容したと主張するが、右OA化は、事務の効率化、迅速化の観点から進められたものであり、それによって、前記の税務事務の特殊性が大幅に軽減されるというものとは認め難いから、原告の右主張は採用できない。
3給与条例一三条一項にいう「特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められる」か否かについて
証拠(乙一六)及び弁論の全趣旨によれば、税務事務に携わる国家公務員については、一般行政職の俸給表に比べて、優遇された内容の税務職俸給表が適用されているが、「地方公務員の給与制度等の改正について」(昭和三二年六月一日自乙公発第五一号各都道府県知事・都道府県人事委員会委員長あて自治庁次長通達)においては、税務職給料表は地方公務員に原則として用いないこととし、特別な給料表を用いない場合において必要があるときは、当該職の実態により、給料の調整額、特殊勤務手当又は資格基準において適宜措置し、給与の均衡を図ることが適当であるとされ、渋谷区においては、税務事務を担当する職員について、税務職給料表は用いず、一般の職員と同じ行政職給料表(一)を用いていることが認められるところ、渋谷区程度の規模の地方公共団体の場合、税務職給料表のような特別の給料体系を採用することは、人事異動の円滑な実施を著しく困難にするものであることを併せ考えると、税務事務は、前記のような特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められるものに該当するものというべきである。
4したがって、本件における税務事務特別手当の支給
は、給与条例一三条一項、特勤手当規則別表の規定する各要件を満たしているものと認められる。
三滞納整理事務特別手当の支給について
1支給対象職員が特勤手当規則別表手当番号2の対象職員に当たるか否かについ前記認定の納税課の分担事務の内容に照らせば、納税促進係及び滞納整理係は特別区税の滞納処分に係る事務を担当し、納税管理係は、納税課の窓口として来庁した滞納者に対応する点において、滞納処分に関連する事務を担当しているので、課長を除く納税課の職員は、特勤手当規則別表手当番号2にいう「特別区税の滞納処分事務」又は「その補助事務に従事する職員」に該当すると認められる。
2対象となる勤務が給与条例一三条一項にいう「著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要と」する勤務に当たるか否かについて
前記認定によれば、滞納処分事務及びその補助事務は、滞納者の反発がより激しくなるのに対して、税の納付を粘り強く勧奨し、場合によっては、強制的手段を用いて税の納入の促進を図るものであり、精神的緊張及び心労を伴う困難な職務と認められるから、税務事務特別手当の支給対象となる賦課徴収事務における前記特殊性には包摂されない別途の特殊性があるということができる。
したがって、右のような意味において、特別区税の滞納処分事務及びその補助事務は、給与条例一三条一項が規定する「著しく特殊な勤務」に該当するものということができる。
なお、原告は、滞納処分事務を一律に特殊勤務手当の支給対象とするのは違法であると主張するが、前記のとおり、滞納整理事務特別手当は、担当事務に応じ、甲級、乙級の格差を設けて支給されており、内勤者についての前記格差の基準も合理的なものであると認められるから、原告の右主張は採用できない。
3給与条例一三条一項にいう「特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められる」か否かについて
滞納処分事務及びその補助事務は、右のように著しく困難な事務であり、その事務の効率を挙げるためには、特に個々の職員個人の忍耐ないし努力と創意工夫が求められるので、職員個人の志気を維持するためには、給与の中に奨励給的要素を取り入れることが必要であり、このような特殊な要素を画一化して給料として考慮することは適当でないものと認めることができる。
そうであるとすれば、滞納処分事務及びその補助事務における前記のような勤務の特殊性は
給料で考慮することが適当でないというべきである。
4したがって、本件における滞納処分事務特別手当の支給は給与条例一三条一項、特勤手当規則別表の規定する各要件を充足するものということができる。
四以上によれば、本件各手当の支給には違法は認められないものというべきである。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

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